食品メーカーの補助金“リアル”講座【第2回】食品工場への投資なら農水省 or 経産省?|制度設計の違いから解説   

食品工場への投資なら農水省 or 経産省?のアイキャッチ

食品工場への大規模な投資のための補助金活用なら……農水省と経産省、 うちにはどっちが向いてるんだろう?

賃上げ要件がある補助金だけど、うちの工場でクリアできるのかな……?

食品工場で使える補助金を調べていくと、こういった疑問が出てくることはよくあります。先にその回答をお伝えすると、食品工場の8割以上は、農林水産省(農水省)の補助金のほうがフィットすると思われます。 

まず、同シリーズ第1回の記事でお伝えしたように、両省の「めざすこと」「制度のつくり方」「対象になる投資の大きさ」が異なるためです。さらに、「賃上げ要件(従業員の給料を上げることを求める条件)の有無」といった違いも、その理由にあります。この記事では、両省の補助金制度の違いをもう少し深く掘り下げます。食品工場への投資を具体的に考え始められるなら、ぜひ、参考にしてください。 

📋 この記事でわかること 
  • [第1回の記事の復習] 農水省と経産省-政策目的の違い/それが補助金にどう反映する? 
  • 食品工場にとってはずっしりと重い「賃上げ要件」。現場へのそのリアルな影響 
  • 現在の補助金の世界~「規模の小さい補助金」と「大きい補助金」の二極化 
  • うちは農水省と経産省、どっちに当てはまるのか?をその場で判断できる、わかりやすいチェックポイント 
目次

1 [まずは復習から]それぞれの省の目的・補助金制度の狙い 

1-1. 経済産業省は、いったい何を目指しているのか? 

経産省の使命はひと言でいうと「日本全体の産業競争力を、どんどん引き上げていく」こと。そのため、同省の補助金は「どれだけ伸びるか」「どれだけ儲かるか」を重視するタイプの制度です。具体的には、以下のような目的に対応する補助金がほとんどです。 

● 生産性(同じ時間でどれだけ多く稼げるか)を高めること 

● 高付加価値化(より儲かるものをつくっていくこと) 

● DX(デジタル技術を使った業務改革)や、最先端の設備を入れていくこと 

● もっと儲けが出る会社にしていくこと(収益性の向上)  

1-2. 一方の農林水産省は、何を目指しているのか?

農林水産省の目的は「食料安全保障」「地域経済の持続性」であり、経産省と異なる方向を向いています。補助金制度も、以下のように「地域とのつながり」「食品にかかわる事業者どうしの連携」を重視して設計されています。 

● 国産原料を強化すること 

● 食料安全保障(国内で食べ物をしっかり供給できる力)を守ること 

● 農業と加工業と地域の産業が手を組んで、価値を高めていくこと 

● 食品業界と一次産業(農業や漁業など)を全体的に底上げすること 

1-3. 「目的の違い」が「補助金制度」に反映される 

使命も補助金の目的も異なるため、経産省と農水省では、「どんな投資を良しとするか」という考え方が根本的に違っています。補助金申請における審査で評価されるポイントも以下のように大きな差があります。 

経産省の考え方/「攻め重視」の評価 農水省の考え方/「守り+地域重視」の評価 
どれだけ伸びるか(成長率) 
どれだけ儲かるか(収益性) 
どれだけ新しいことをやるか(革新性) 
経済全体にどれだけ広がっていくか 
地域の事業者と連携できているか
国産原料をどれくらい使っているか
供給体制を強められるか
衛生レベルの高さ(HACCP・FSSC22000などの衛生管理の国際基準) 
地域全体にどれだけ良い影響を広げられるか 

食品工場への比較的大きな投資に補助金活用を検討する場合、農水省はもちろんですが、経産省の補助金も対象になり得ます。しかしながら、第1回の記事でもお伝えしたように、農水省の補助金との相性のほうが圧倒的に良好なのです。その理由は、経産省が好む「革新性」「成長率」を重視する物差しに合わせることは、多くの食品メーカーにとってなかなか骨が折れることだからです。特に、理解しておくべきことは、「賃上げ要件」がともなうことです。 

2 賃上げ要件——食品工場にとって、ここが一番の分かれ道 

2-1. 経産省の補助金は、賃上げがほぼ「セット」になっている 

経産省の補助金は、「賃上げ要件」、つまり、従業員の給与アップを補助金申請の条件に組み込まれているものが目立ちます。例としてあげた以下の補助金はよく知られているもので、食品工場への投資を検討されたことのある方であれば、見たり、調べたりしたことがある、という方も多いかもしれません。 

● ものづくり補助金(※)……時給を上げることが、申請の条件として義務化されている 

● 大規模成長投資補助金……賃上げが必須要件として、しっかり組み込まれている 

※令和8年度より『新事業進出・ものづくり補助金』に統合予定 

これらの補助金では、計画として申請した「賃上げの目標」が達成できなかった場合、補助金の返納が求められ行政への報告対応が長く続く、といったリスクがあります。賃上げを実現可能な経営計画として組み込めない会社にとっては、たとえ補助金事業者として採択されたとしても、その後の運用が重くのしかかってくる制度なのです。 

2-2. 食品メーカーにとって、賃上げ要件はかなり重い経営テーマ 

食品メーカーの場合、賃上げ要件は特に大きなハードルになりやすいです。その背景には、食品業界ならではの事情があります。 

● 原材料の価格高騰で、利益が削られやすい 

● 値上げ(コスト増を商品の価格に上乗せすること=価格転嫁)が難しく、コスト増がそのまま利益を圧迫する 

● 人件費(労務費)の割合が大きく、賃上げの影響がそのまま利益に響く 

つまり、食品業界の特性を考えると、賃上げ要件は「払えない」というよりも「無理して約束した場合のリスクが大きすぎる」という性質のものなのです。 

2-3. 一方、農水省の補助金には賃上げ要件がない 

農水省の補助金の目的は、「供給力をしっかり強化させる」ことと「地域の中でモノやお金が循環する仕組みをつくる」ことです。そのため、賃上げを成果の目標(必須要件とする)設計にはなっていません。これが、食品メーカーにとって、農水省の補助金が選択しやすい大きな理由の一つです。 

🔑 ポイント 

経産省の補助金は「賃上げをきちんと約束できる会社」を前提に作られています。一方、農水省の補助金は、賃上げを約束しなくても、供給力の強化や地域との連携できちんと評価される制度です。この違いは、食品工場にとって、決定的な大きな差になります。 

賃上げ要件の差を見てきたところで、次は補助金の「サイズ」の話に移っていきます。第1回の記事でも触れたことですが、今回はもう少し詳しく見ていきましょう。実は、補助金の世界はここ数年で大きく姿を変えています。 

3 補助金は「小さい」と「大きい」に二極化、中間がすっぽり空いている 

ここ数年、補助金の世界は、極端に二つのタイプに分かれています。「とても小さい補助金」、もしくは「とても大きい補助金」という規模のものばかりで、中間ゾーンがぽっかり空いてしまっています。第1回記事の復習となる部分も含めて、補助金の規模感を確認していきましょう。 

3-1. 小規模な補助金——食品工場の投資には小さすぎる 

小規模補助金として代表的なものを、以下に整理しました。なお、いずれも経産省の補助金です。 

補助金 上限額の目安 
小規模事業者持続化補助金 ~250万円(特例適用時) 
ものづくり補助金 ~4,000万円(大幅賃上げ特例適用時) 

食品工場の代表的な投資の大きさは、3,000万〜1億円ほど。上にあげた補助金でも上限の4,000万円が受けられるなら一部はカバーできますが、それでも工場全体の投資には大幅に足りない、というのが正直なところです。 

3-2. 超大型の補助金——食品工場の投資には、今度は大きすぎる 

次は、超大型と呼ばれる補助金の代表例です。こちらも経産省の補助金です。 

補助金 想定する投資規模 
大規模成長投資補助金 投資下限20億円以上(100億宣言企業は15億円以上)・補助上限50億円 

大規模成長投資補助金のような超大型の制度は、食品メーカーが普段行う投資とは、金額のケタに差がありすぎます。そのため、そういった補助金を狙う計画を立てるとなると、どうしても無理が出てしまうのです。 

3-3. 経産省の制度には、「1〜10億円」のちょうど中間レンジがほぼない 

食品工場が検討する投資でいちばん多いのは、まさに「1〜10億円」のゾーン。ところが、経産省の補助金制度で、この中間ゾーンに自然にフィットするものはなかなか見当たりません。新事業向けや100億宣言企業向けなど、特定の条件を満たす制度はあるものの、食品工場が一般的に検討することの多い設備投資にそのまま使える「ちょうどいいサイズ」の補助金は、案外、少ないのです。 

⚠️ 注意 

この「中間ゾーンの空白」こそが、食品工場が「経産省の補助金、なんだか使いにくいな……」と感じる、いちばん大きな理由です。 

3-4. 農水省の補助金が中間ゾーンをしっかりカバーしています 

この「1〜10億円」の中間レンジをきちんとカバーしてくれているのが、農水省の補助金です。農水省の制度は、数千万円〜数億円規模の事業にも柔軟に対応できるように設計されていますが、食品工場の現場でリアルに検討されている投資の大きさは、まさに農水省の補助金制度に適しています。 

実際にお客様からも、以下のような投資のご相談をよく受けています。 

事例の種類 投資規模の目安 
冷凍スムージー工場の整備 約2億円 
老朽工場の建替+包装機の更新 約1.2億円 
地元原料を使ったペースト加工ライン 約5億円 

「自社の規模に合う補助金がなかなか見つからない」という方は、もしかすると経産省の制度ばかりをご覧になっていたからかもしれません。視点を農水省側に移してみると、自社の投資サイズと制度のサイズがぴったり合うものが見つかる可能性が非常に高いです。 

「賃上げ要件の有無」「補助金の規模感の違い」をここまで見てきました。 

最後に、経産省と農水省の補助金のどちらが自社に合っているかについて、具体的に判断するための材料を整理していきましょう。 

4 最終判断——食品工場は、結局どちらを選ぶべき? 

ここまで見てきた内容を踏まえて、「農水省or経産省、どっち向き?」を判断するためのチェックポイントを整理しました。皆さんの工場は、どちらに該当する項目が多いでしょうか。 

4-1.  農水省の補助金が向いているのは、こんなケース 

● HACCPFSSC22000など、衛生レベルの高い工場をつくっていきたい 

● 冷凍や一次加工(原料を最初に加工する工程)のラインを、新設・増強したい 

● 地元の原料を、どんどん積極的に使っていきたい 

● 地域の生産者さんや団体と、しっかり連携している 

● 投資の大きさが、110億円のサイズにおさまる 

● 賃上げ要件のリスクは、できるだけ避けておきたい 

4-2.  経産省の補助金が向いているのは、こんなケース 

● DXIoT(モノとインターネットをつなぐ技術)・自動化システムを本格的に導入したい 

● 巨大なラインを、根本からまるごと新しくしたい 

● 利益率が高く、賃上げ要件をカバーできるだけの経営力がある 

● 投資規模が、20億円を超える大型の案件である(大規模成長投資補助金の場合) 

「うちの工場には農水省の補助金のほうが向いていそうだ」という声のほうが多そうですが、経産省のほうが向いている、というケースももちろんあると思います。ただし、それは「攻めの投資」を積極的に行う企業のケースで、当社が知る限りではありますが、食品業界には少ないタイプの企業と言えるでしょう。 

まとめ

食品工場が選ぶべきなのは、やっぱり農水省の補助金 

  • 経産省は「どれだけ伸びるか」「どれだけ儲かるか」を重視。賃上げ要件と大型投資が前提のため、食品工場の「安定して届ける」タイプの投資とは合わないケースが多いです

  • 補助金の世界は「規模の小さい制度」と「大型の制度」に分かれる傾向に。食品工場が必要としている「1〜10億円」の中間レンジを埋めてくれているのは、実質的に、農水省の補助金です

  • HACCP対応、冷凍・一次加工、地元原料の活用、地域との連携など、食品メーカーが掲げることの多い投資テーマは、農水省補助金の評価ポイントと適合します(経産省の評価とは合わないケースが多いです)

「そもそもの性格の違い」から、経産省ではなく、農水省の補助金を中心に据えて戦略を組むほうが、食品工場、食品メーカーにとっては理にかなった選択なのです。 

❓ よくいただくご質問(FAQ) 

食品工場でも、経産省の補助金で採択されることはありますか?

DX・自動化・大型ライン更新といった、いわゆる「高度化投資」であれば可能です。ただし、賃上げ要件と投資の大きさが両方ともハードルになりやすく、実際には食品工場にはあまり向いていない(というケースが多い)のが実情です。 

1〜10億円程度の工場の投資に使える補助金はありますか?

現実的にフィットするのは、農水省の補助金です。農水省の補助金の多くは、数千万円〜数億円規模の事業に対応しています。食品メーカーの投資サイズにぴったりです。 

農水省の補助金は、小さい工場でも使えますか? 

はい、使えます。数千万円〜1億円前後の設備投資に対応する制度も複数あります。農水省の補助金は、小規模の食品メーカーも活用しやすいラインナップです。 

📖 次回(第3回)予告 

次の【第3回】では、補助金審査に落ちないために、理解しておくべき「キホン」をお届けします。残念なことに、補助金に申請したものの、「経産省向きの投資を農水省に出す」「農水省向きの投資を経産省に出す」という”逆走申請”が時折見受けられます。補助金活用において、「どれを使うか」以上に、「どれに合わせて書くか」が重要なのです。ぜひ次回もご覧ください。 

✍️ この記事を書いた人

北條 竜太郎(ほうじょう りゅうたろう)|株式会社アカネサス 代表取締役

老舗どら焼きメーカー・茜丸を再建(22億円の債務を15年で完済)した経験から、

食品メーカー向けコンサルティング会社を設立。

補助金申請・工場設計・システム開発で食品製造業の成長を支援。

【会社実績】

・支援プロジェクト総事業費:363億円

・補助金採択額:126.5億円

・北海道から沖縄まで全国対応

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