【水産・漁業の設備投資 補助金講座 第2回】陸上養殖の補助金|大型設備投資に使える制度と進め方 

陸上養殖の補助金のアイキャッチ

陸上養殖って設備がとにかく高い。補助金なんて本当に出るの?

サーモンの陸上養殖に参入したいけど、どの制度を見ればいいのか分からない

最初にはっきりさせておきます。この記事は「事業として」陸上養殖・養殖業に参入・規模拡大する事業者(と、その産地と組む食品メーカー)に向けたものです。ご家庭の水槽・アクアリウムといった趣味は、ここで扱う補助金の対象になりません。ここが最初のふるい分けです。 

陸上養殖は、水槽・循環ポンプ・ろ過装置・空調など、初期の設備投資が数千万〜数億円規模になりやすい分野です。だからこそ補助金の使いどころが大きい。ただし制度が年度で変わりやすく、ネット上には古い数字も混ざっています。そこでこの記事では「何が使えるか→なぜ制度が分かれているか→どう進めるか」の順に整理します。数字は水産庁など一次情報で確認できたものだけを断定し、確認できないものは正直に「要確認」と書きます。 

📋 この記事でわかること 
  • 陸上養殖・養殖業の「事業」に使える国・自治体の補助金の全体像(趣味のアクアリウムは対象外) 
  • 「養殖業成長産業化」の実証・システム導入、浜の交付金、自治体独自制度の違いと補助率・上限 
  • 制度が変わりやすい陸上養殖で、断定してよい数字と「要綱で要確認」の数字の見分け方 
  • 産地と組む食品メーカーが、養殖事業者の設備投資にどう関与できるか 

それでは、まず全体像から見ていきましょう。 

目次

1. まず全体像:陸上養殖の補助金は大きく3ルート 

国の「養殖業成長産業化」ルートと、施設向けの「交付金」ルート 

陸上養殖の設備投資に使える公的支援は、大きく次の3つに分けて考えると迷いません。

(1)国の「養殖業成長産業化」を旗印にした実証・技術開発の支援、(2)産地の設備(施設)に効く「浜の活力再生・成長促進交付金」、(3)都道府県など自治体独自の陸上養殖向け補助金です。 

(1)は「マーケットイン(=売り先を決めてから作る発想)で、生産性・販売力を高める実証」を後押しする性格が強く、資材・機材の導入費まで対象になる枠があります。(2)は産地の共同利用施設など「モノ」に効くのが特徴です。(3)は自治体ごとに条件が違い、新たに参入する事業者に手厚い例もあります。 

💡 陸上養殖は「新しい技術・新しいシステム」の色が濃いぶん、国の枠では“実証・技術開発”の看板がついた事業と相性が良いのが特徴です。一方で「純粋な施設整備」は、交付金や自治体制度のほうが素直に使えることが多い。まずは自分の投資が「実証寄り」か「施設整備寄り」かを見極めるのが第一歩です。 

ルートの見当がついたところで、申請の前に必ず確認しておきたい手続きがあります。 

前提:陸上養殖業は令和54月から「届出制」 

陸上養殖業は、令和5年(2023年)4月1日から、内水面漁業の振興に関する法律にもとづく届出制(=事業を始めるときに都道府県を通じて国へ届け出る仕組み)の対象になりました。陸上での養殖の実態を把握するための制度で、対象になるのは一部の陸上養殖業です。海水を使うもの、閉鎖循環式のもの、餌や糞を取り除かずに排水するものなどが該当します(趣味の観賞魚は対象外)。

新たに始めるなら、養殖を開始する1か月前までに届出が必要で、その後は毎年、前年度の実績を報告します。補助金より前の手続きですので、事業として営むなら自社が届出の対象かどうかを先に確認しておきましょう。制度の詳細や様式は水産庁の案内で要確認です。 

前提を押さえたところで、それぞれの制度の中身と数字を見ていきます。 

2. 制度の比較:補助率・上限で並べて見る 

主要3制度の早見表 

まずは全体を1枚で見比べます。数字は令和7〜8年度の公募・要綱をもとに確認できたものを載せています(年度によって変わります)。 

以下の表で、主要3制度を比較します。 

制度(ルート) 補助率・上限 対象・ポイント 
養殖業成長産業化/マーケットイン型養殖業等実証事業 外部評価費:定額・上限80万円
資材・機材導入費:1/2・上限5,000万円 
養殖経営体・グループが対象で、新規着業(新たに養殖を始めること)は対象外。陸上養殖では海産魚類・貝類・藻類・甲殻類等やサケ・マス類が対象養殖業に含まれます。 
養殖業成長産業化/提案公募型実証事業 技術開発・実証経費の1/2・上限5,000万円 民間企業・大学・研究法人・自治体等が対象。「新魚種・新養殖システム」等の分野が設定され、陸上養殖もこの分野に含まれます。 
浜の活力再生・成長促進交付金(養殖関連施設) 1/2以内(事業費500万円以上) 実施主体は都道府県・市町村等。養殖用種苗生産施設・養殖施設などが対象。地域の浜プランに基づき、受益者(漁業者)5名以上の共同利用施設が中心です。 

※補助率・上限額・締切は年度により変わります。申請前に必ず最新の公募要領でご確認ください。 

国の制度に加えて、もう一本、見落とせないルートがあります。 

自治体独自制度という“もう一本” 

上の国の制度に加えて、都道府県が独自に陸上養殖の参入を後押しする補助金を出す例があります。一例として宮城県の「陸上養殖システム導入支援事業」を挙げます(あくまで一自治体の例で、内容・有無は都道府県ごとに異なります)。なお同事業は年度ごとに公募されており、令和8年度も同じ補助率1/2以内・上限1億円で公募されました(申請期間は令和8年4月24日〜6月26日)。次年度以降の実施や内容は変わり得るため要確認です。 

宮城県の例を、以下の表で整理しました。 

項目 内容(宮城県の例) 
実施主体 宮城県(県の事業) 
対象者 閉鎖循環式陸上養殖システムを導入して参入する事業者(県が事業計画を認定) 
補助率 2分の1以内 
上限額 1事業者あたり1億円 
対象経費 飼育水槽・循環ポンプ・泡沫分離装置・生物ろ過槽等のシステム構成機器 ほか 

💡 補助率「1/2」は、国・自治体を通じてよく見る目安です。ただし“上限額”は制度によって大きく違い(数千万円から1億円級まで)、対象経費の線引きも制度ごとに異なります。上限額と対象経費こそ、公募要領で最初に確認すべき2点です。 

ここからは、3つの制度を1つずつ見ていきます。 

3. 制度別の中身:どれが自分に効くか 

マーケットイン型養殖業等実証事業(“売り先ありき”で作る、既存の経営体向け) 

これは、需要に合わせた養殖(マーケットイン型)を実現し、経営体の販売力・生産性を高める生産基盤づくりを後押しする事業です。ポイントは、支援が2段構えになっていること。まず(1)事業として成り立つかを外部の目でチェックする「外部評価費」(定額・上限80万円)があり、(2)その評価を受けた経営体・グループが「資材・機材導入費」(1/2・上限5,000万円)に進む、という順序です。 

対象は養殖経営体・グループ。陸上養殖では海産魚類・貝類・藻類・甲殻類等やサケ・マス類が対象養殖業に含まれます。ただし水産庁の資料では、この事業は「新規着業は対象外」とされています。つまり、すでに養殖を営んでいる経営体の設備投資に向いた枠だということです。これから参入する段階なら、前述の自治体制度や次に述べる提案公募型のほうが現実的でしょう。なお公募の窓口は水産庁ではなく、特定非営利活動法人 水産業・漁村活性化推進機構です。令和7年度は外部評価費・資材機材費とも募集時期が分かれていました。募集回・締切は年度で変わるため、最新の公募要領で要確認です。 

同じ「養殖業成長産業化」の枠でも、技術開発そのものを狙う場合は別の入口があります。 

提案公募型実証事業(“新システム・新魚種”の技術開発向け) 

陸上養殖は「新しい養殖システム」の色が濃い分野です。技術開発・実証そのものを狙うなら、提案公募型の実証事業が候補になります。技術開発・実証にかかる経費の1/2まで、上限は5,000万円(事業期間を通算して1件あたり。期間は最長3年)。対象者は民間企業・大学・研究法人・自治体などと幅広く、「新魚種・新養殖システムの推進」「スマート水産業」等の分野が設定されています。純粋な設備投資というより、“実証を伴う開発”に向く枠だと考えてください。 

一方、施設そのものにお金をかけたい場合は、交付金のほうが素直に使えます。 

浜の活力再生・成長促進交付金(施設に素直に効く) 

「モノ(施設)」にお金をかけたいなら、この交付金の養殖関連施設が基本線です。養殖用種苗生産施設や養殖施設などが1/2以内で対象になります。ただし実施主体は都道府県・市町村等で、地域の「浜の活力再生プラン(通称・浜プラン。地域の漁業者が所得向上をめざしてつくる再生計画)」に基づく共同利用施設という枠組みが中心です。単独の民間事業者がそのまま使うというより、産地・漁協・自治体と一体で組む性格が強い制度だと押さえてください。要件(過剰漁獲がないこと等)も付くため、詳細は別表・要綱で要確認です。 

実際、この交付金は複数の漁業者が共同で使う施設を想定しているため、事業費500万円以上・受益者(漁業者)5名以上といった要件が前提になります。単独での陸上養殖参入なら、まずは前述の実証系や自治体制度を軸に考えるのが現実的です。 

国の水産系の制度だけでは足りない場合、他省庁の制度に目が向くこともあります。 

民間活用(ものづくり補助金等)に触れる場合の注意 

「国の水産系だけでは足りない/使いにくい」というときに、ものづくり補助金(令和8年度から新事業進出補助金と統合され、『新事業進出・ものづくり商業サービス補助金』として第1回公募が始まっています)など経済産業省系の一般制度を組み合わせる事業者もいます。ただしこれらは水産専用ではなく、補助率・上限・対象経費・公募回が頻繁に変わります。本講座では数値を断定せず、活用を検討する場合は各制度の最新の公募要領で要確認、という扱いにします。 

制度の中身が見えたところで、最後に「どう進めるか」を確認しておきましょう。 

4. 進め方:食品メーカーと組む視点で強くする 

「売り先」を設計に織り込む 

陸上養殖の補助金は、制度のメッセージ自体が「需要ありき(マーケットイン)」に寄っています。つまり“作れる”だけでなく“売れる”設計になっているかが、採否・評価の軸になりやすいということです。

ここが、産地と組む食品メーカーの出番になります。加工・販路・数量の見通しを事業計画に織り込めれば、外部評価や事業性評価の説得力が上がります。実際、先ほどの宮城県の例では、種苗の供給や原料の確保で県内の漁業者・水産加工業者にメリットがあることが事業要件に入っています。地元の加工・販売と組むこと自体が、要件を満たす材料になるわけです。 

そして、売り先の設計と同じくらい大切なのが、時間の使い方です。 

制度を「組む」前提でスケジュールを引く 

実証系(マーケットイン型・提案公募型)は、募集回が年度内に分かれており、外部評価→資材・機材のように段階を踏むものもあります。施設系(交付金)は自治体の計画サイクルに乗ります。ですから、投資の時期から逆算して「どの制度を、いつ、どの順で」当てるかを先に描いておくことが重要です。思い立ってから単発で探すと、たいてい締切に間に合いません。 

⚠️ 陸上養殖は制度が変わりやすい分野です。この記事の数字(補助率1/2、上限80万円・5,000万円・1億円等)は、確認時点の要綱・公募をもとにしています。申請前には必ず最新の公募要領で、補助率・上限・対象経費・締切を取り直してください。 

ここまでの3ルートの関係を、以下の図で整理しました。 

陸上養殖の補助金|陸上養殖に使える「3つのルート」(図解)

まとめ 

陸上養殖は投資額が大きいぶん、制度選びの最初の一歩でつまずくと計画全体が止まります。だからこそ「自分の投資は実証寄りか、施設整備寄りか」を先に決めるのが近道です。 

この記事のポイントを振り返ってみましょう。 

  • 陸上養殖の公的支援は「成長産業化の実証」「浜の交付金(施設)」「自治体独自制度」の3ルートで捉えると整理できる(趣味のアクアリウムは対象外) 
  • 補助率は1/2が目安。マーケットイン型は外部評価費80万円+資材機材5,000万円(新規着業は対象外)、提案公募型は5,000万円、宮城県の例は上限1億円(いずれも要綱ベース) 
  • 「上限額」と「対象経費」の線引きは制度で大きく違うため、まずここを公募要領で確認する 
  • 数字・締切は年度で変わるため、申請前に最新の公募要領で必ず取り直す。「売り先」を織り込むほど評価は強くなる 

少しでも気になった方は、記事の最後の無料診断もぜひご活用ください。 

📖 次回(第3回)予告 

第3回:漁船の補助金とリース|中古・新造を導入する「競争力強化漁船導入事業」を解説

 第3回は「漁船の補助金とリース」を掘り下げます。漁船は買うだけでなく、団体が取得して漁業者が借りる「漁船リース」という道があります。中古・新造それぞれの導入の考え方と、対象になる漁業者の要件を具体的に整理します。 

📚 水産・漁業の設備投資 補助金講座|シリーズ一覧 

第1回:水産・漁業の補助金まとめ2026|設備投資・産地強化で使える制度を目的別に比較 

▶ 第2回:陸上養殖の補助金|大型設備投資に使える制度と進め方【2026・事業者向け】 ◀今ここ 

第3回:漁船の補助金とリース|中古・新造を導入する「競争力強化漁船導入事業」を解説 

第4回:浜の活力再生プランとは?水産補助金の入口と産地施設整備を解説 

✍️ この記事を書いた人

北條 竜太郎(ほうじょう りゅうたろう)|株式会社アカネサス 代表取締役

老舗どら焼きメーカー・茜丸を再建(22億円の債務を15年で完済)した経験から、

食品メーカー向けコンサルティング会社を設立。

補助金申請・工場設計・システム開発で食品製造業の成長を支援。

【会社実績】

・支援プロジェクト総事業費:363億円

・補助金採択額:126.5億円

・北海道から沖縄まで全国対応

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