【大型成長投資補助金 完全攻略シリーズ 第5回】成長加速化・大規模成長投資補助金の賃上げ要件を徹底解説|未達成で補助金返還になる条件と計算方法


賃上げ未達成だと補助金を返さないといけないって本当?どのくらい怖い条件なの?



毎年4〜5%も給与を上げ続けないといけないの?それって現実的に可能なの?
前回と前々回では、成長加速化補助金と大規模成長投資補助金の仕組みと、実際に採択された会社の姿をご紹介しました。今回は、この2つの補助金に共通する重要な条件——「賃上げ要件(会社が従業員の給与を一定率以上引き上げる義務)」について、詳しく見ていきましょう。
設備投資の補助金なのに、なぜ「従業員の給与を上げること」が必須条件なのか——。その理由を理解することが、審査に通る事業計画(補助金を申請するための投資計画書)を作る第一歩になります。
まずは、2つの補助金における賃上げ要件の全体像を整理しましょう。
- 賃上げ要件の全体像と2つの補助金の比較
- なぜ設備投資の補助金に「賃上げ」が義務づけられているのか
- 賃上げ率の計算方法と、給与支給総額に含まれるもの・含まれないもの
- 賃上げ原資(財源)を確保する3つのパターン
- 食品メーカーで使える賃上げストーリーの具体例
- 賃上げ計画でよくある失敗パターンと対策
経産省補助金における「賃上げ要件」の全体像
成長加速化補助金・大規模成長投資補助金はどちらも、賃上げを「必ず満たさなければならない条件」として設定しています。審査で有利になる「加点項目」とは違い、達成できなければ補助金を返さなければならないという厳しいペナルティが伴います。
2つの補助金の賃上げ要件の違いを、以下の表で比べてみましょう。
| 項目 | 成長加速化補助金 | 大規模成長投資補助金 |
|---|---|---|
| 賃上げ率(必須) | 全国の最低賃金上昇率(4.5%)以上 | 年4.5%以上 |
| 基準の考え方 | 直近5年間の全国平均 | 過去3年間の全国平均上昇率 |
| 採択者の中央値 | 年4〜5%程度 | 年4.3〜5.4% |
| 賃上げ実施期間 | 補助事業完了後3年間 | 補助事業完了後3年間 |
| 未達成時 | 未達成率に応じて返還 | 補助金返還 |
賃上げ要件は「できればいいな」という目標ではありません。達成できなければ、受け取った補助金の全部または一部を返さなければならない義務が発生します。
成長加速化補助金の公募要領(申請のルールをまとめた文書)には、「天災などやむを得ない特別な事情を除き、目標に届かなかった割合に応じて補助金を返還する」と明記されています。
「高い目標で審査を通過してから、あとで目標を下げればいい」という考え方は通用しません。申請の時点から、必ず達成できる計画を立てることが大前提です。
では、そもそもなぜ設備投資の補助金に「賃上げ」が条件として組み込まれているのでしょうか。
なぜ「賃上げ」が補助金の条件なのか
この疑問を持つ方は多いと思います。答えを一言でいうと、「設備投資の成果を、従業員の給与にも届けてほしい」という政府の強いメッセージです。その背景をもう少し詳しく見ていきましょう。
📊 政府の経済政策と補助金の関係
【政府の課題認識】
日本経済はこの30年間、賃金がほとんど上がらない状態(低賃金均衡)が続いてきました。企業が設備に投資しても、その成果が従業員の給与に反映されず、消費が伸びず、そのせいで企業がさらに投資を控える——という悪循環が続いていたのです。
【政策の転換】
そこで政府は、「設備投資の成果を従業員の給与にも還元する流れをつくる」ため、補助金をもらう条件として賃上げを義務化しました。「国がお金を出す以上、その成果を従業員にも届けてほしい」というメッセージです。
【なぜ4〜5%という水準か】
過去3年間の最低賃金(法律で定められた給与の最低額)の全国平均上昇率が約4.5%であり、これが基準値として設定されています。「最低賃金と同じペースで給与を上げられない会社には、補助金は出さない」という明確な線引きです。
賃上げが義務である背景がわかったところで、次は「実際にどうやって計算するのか」という具体的な方法を確認しましょう。
賃上げ要件の計算方法と従業員への表明
賃上げ要件の達成は、2つの方法のどちらかで判定されます。なお、設定した賃上げ目標を従業員に正式に伝える(表明する)ことも、申請の要件のひとつです。
📐 賃上げ率の2つの判定方法
会社全体の給与支給総額が基準率以上増加しているか
会社全体の給与支給総額が基準率以上増加しているか
【給与支給総額に含まれるもの】
- 給料、賞与
- 各種手当(残業手当、休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族手当、住宅手当等)
- 給与所得として課税対象となる経費
【含まれないもの】
- 福利厚生費、法定福利費(社会保険料の会社負担分等)
- 退職金
- 役員報酬(※役員の賃上げは別途「役員目標賃上げ率」として設定)
具体的な計算例
年4.5%の賃上げを、従業員100人の会社を例に計算すると次のようになります。
現状:給与支給総額 5億円 ÷ 従業員100人 = 一人当たり500万円
1年後:500万円 × 1.045 = 522.5万円(+22.5万円/人)
3年後:500万円 × 1.045³ = 約570万円(+70万円/人)
会社全体でみると、年を追うごとに相当な人件費の増加が見込まれます。
・1年後:22.5万円 × 100人 = 年間2,250万円の人件費増
・3年後:70万円 × 100人 = 年間7,000万円の人件費増
こうした人件費の増加をどう賄うか——それを「賃上げ原資(賃上げのための財源)」と呼びます。次は、その原資をどう確保するかを考えていきましょう。
賃上げの原資をどう確保するか
賃上げ原資の確保方法には、大きく3つのパターンがあります。採択される計画では、どのパターンで財源を生み出すかが、具体的な数字で示されています。
考え方:設備投資で生産能力を拡大 → 売上増加 → 利益増加 → 賃上げ原資を確保
具体例:「新ライン導入で売上30億円→40億円(+10億円)。営業利益率10%で利益1億円増。うち5,000万円を賃上げに充当」
注意点:売上増加の根拠(販路・顧客・市場)が明確でないと説得力がない
考え方:設備投資で生産効率向上 → 同じ売上でもコスト削減 → 利益増加 → 賃上げ原資を確保
具体例:「自動化ラインで製造原価率を45%→40%に改善。売上30億円なら年間1.5億円のコスト削減。うち5,000万円を賃上げに充当」
注意点:「人員削減」ではなく「一人当たり生産性向上」として説明する必要がある
考え方:設備投資で高付加価値製品を製造 → 単価アップ・利益率向上 → 賃上げ原資を確保
具体例:「冷凍設備導入で高単価の冷凍食品事業に参入。粗利率を25%→35%に改善。増加利益から賃上げ原資を確保」
注意点:新市場・新製品の需要と競争力の根拠が必要
これらのパターンが、食品メーカーの現場ではどのように活用できるか、具体的なイメージを見てみましょう。
食品メーカーでの賃上げ計画の考え方
食品製造業はもともと利益率が低い業種として知られています。だからこそ、「給与を上げるための財源(賃上げ原資)をどう生み出すか」を、具体的な数字で説明できることが採択の鍵になります。
✅ 生産能力拡大 → 大手小売チェーンへの供給開始 → 売上増
「生産能力が足りず断っていた大手との取引を開始。売上10億円増を見込む」
✅ 自動化による製造原価率の改善 → 利益率向上
「手作業工程を自動化し、製造原価率を5ポイント改善。年間8,000万円のコスト削減」
✅ 冷凍食品・高付加価値製品への進出 → 粗利率向上
「既存のチルド製品(粗利20%)から冷凍製品(粗利35%)へシフト。同じ売上でも利益が1.5倍に」
✅ 輸出・海外展開による販路拡大 → 売上増
「HACCP対応設備の導入で輸出が可能に。アジア市場への販路開拓で売上5億円増」
一方で、こうした計画を立てる際によくある「落とし穴」も押さえておきましょう。
賃上げ計画でよくある失敗パターン
✗ よくある失敗パターン
✗ 「売上が増えるから賃上げできます」(根拠が曖昧)
→ 売上が増える具体的な根拠(どの顧客・販路・市場か)が示されていない
✗ 「自動化で人を減らして一人当たり賃金を上げます」
→ この補助金が求める「省力化」は人員削減ではなく生産性向上のこと。雇用を維持または増やしながら、一人ひとりの生産量を上げることが前提
✗ 「利益が出たら賃上げします」(条件付き)
→ 賃上げは「義務」。達成できなければ補助金を返さなければならない。確実に達成できる計画が必要
✗ 「数字は高ければ高いほど採択されやすい」(楽観的な目標設定)
→ 未達成なら返還義務が生じる。過去の実績に基づいた「必ず達成できる目標」でなければ逆効果
最後に、ここまでの内容を整理しましょう。
まとめ
この記事でお伝えしたように、経産省補助金の「賃上げ要件」は努力目標ではなく、達成できなければ補助金を返さなければならない「義務」です。審査では「給与を上げるためのお金(賃上げ原資)をどこから生み出すのか」が徹底的に確認されます。
採択される計画に共通するのは、「この設備を入れると、売上が増える(またはコストが下がる)→ その結果、利益が増える → 増えた利益の一部を従業員の給与に充てる」という流れが、具体的な数字で説明されていることです。
「設備を入れたい」という気持ちだけでなく、「この投資で会社がどう成長し、どうやって給与を上げるか」のストーリーを数字で語れるかどうかが問われています。
次回は、採択される事業計画の書き方について、より具体的に解説します。
次回は、採択される事業計画書(成長投資計画書)の書き方を、審査の5つの評価軸に沿って具体的に解説します。「どの評価軸で点が取れるか」「通る計画と落ちる計画の違いは何か」を、実際の採択事例をもとにお伝えします!
第1回:成長加速化補助金・大規模成長投資補助金とは?|2026年に経産省補助金が「成長企業だけ支援」へシフトした理由
第2回:成長加速化補助金を徹底解説|補助上限5億円・投資額中央値11億円の現実と採択される計画の条件
第3回:大規模成長投資補助金を徹底解説|平均投資額50億円・採択率14%の世界と食品メーカーの活用条件
第4回:成長加速化・大規模成長投資補助金の採択企業を徹底分析|通る会社の規模・業種・投資内容の共通点
第5回:成長加速化・大規模成長投資補助金の賃上げ要件を徹底解説|未達成で補助金返還になる条件と計算方法 ◀今ここ








