農林水産系補助金講座【第3回】食品メーカーの輸出補助金は展示会支援から施設整備へ|令和7年度補正で変わった輸出支援の使い方

食品メーカーの輸出補助金は展示会支援から施設整備へのアイキャッチ

輸出の補助金って、結局は海外展示会に出るためのお金でしょ?

うちみたいな食品メーカーが、輸出支援の枠を本当に使えるのかな……

第2回では、令和7年度補正で最も予算が厚い「構造転換 × スマート農業」を、食品メーカーの目線で見てきました。今回は、そのなかでも食品メーカーが主役として関われる「輸出支援」の枠を取り上げます。 

実は、この輸出支援の「使われ方」が、令和7年度補正を境に大きく変わりました。これまでの「海外展示会に出て終わり」という単発の支援から、産地から工場、物流、海外販売までをひとつにまとめた「プロジェクト型」へ。この記事では、「何が変わったのか → どうして変わったのか → 食品メーカーはどう使えばいいのか」という順番で、ひとつずつ見ていきます。 

📋 この記事でわかること 
  • 輸出補助金の「使われ方」が、展示会などの単発支援から「プロジェクト型」へ変わったこと 
  • 令和7年度補正の「輸出促進緊急対策事業」に、産地側・商流側・マーケティング側のメニューが並んでいること 
  • 食品メーカーが使いやすい4つの枠(HACCPハード/国際競争力強化/サプライチェーン連結強化/食品等物流合理化) 
  • 上限額が5億円から6億円に上がった「HACCPハード」が、輸出対応の入口として引き続き重要なこと 
  • GFP登録が、輸出補助金を使うための「入場券」になりつつあること 
目次

1 輸出補助金の「使われ方」が変わってきた 

これまで、食品メーカーにとって輸出関連の補助金といえば、「海外展示会への出展費用」「商談会に行くための渡航費」「販促物をつくる費用」といった、その場かぎりの宣伝(プロモーション)支援が中心でした。 

もちろん、展示会に出ることや商談会は、今でも大切です。ただ、令和7年度補正を境に、輸出支援の設計思想(どういう考え方でお金を配るか)が大きく変わってきています。 

キーワードは「プロジェクト型」。産地から工場、物流、海外での販売までを、ひとつながりで支える枠組みへと移りつつあるのです。 

では、その「プロジェクト型」の中身は、実際どうなっているのでしょうか。令和7年度補正で新しく設けられた事業を、具体的に見てみましょう。 

2 「輸出促進緊急対策事業」の中身を見てみる 

令和7年度補正で設けられた「農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業」を見ると、次のようなメニューが横並びで置かれています。(参考:全国菓子工業組合連合会・輸出促進緊急対策解説) 

どんなメニューが、どの立場(産地・工場側/商流・物流側/マーケティング側)に向けて並んでいるのかを、以下の表で整理しました。 

立場(どの段階か) 並んでいる主なメニュー 
産地・工場側 GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト 

グローバル産地生産流通基盤強化緊急対策 

輸出向けHACCP等対応施設整備緊急対策(通称:HACCPハード) 
商流・物流側 新市場開拓プロジェクト緊急対策 

サプライチェーン連結強化 

輸出環境整備緊急対策 

食品等物流合理化緊急対策 
マーケティング・ブランディング側 食品産業の国際競争力強化緊急対策 

JFOODO・GI・ブランド戦略関連 

こうして並べてみると、「展示会に単発で出る」ための支援ではなく、産地づくりから工場の整備、物流、現地での販売までを束ねた「プロジェクト型」の支援体系になっていることが分かります。 

3 なぜ「プロジェクト型」に変わったのか 

背景には、これまでの輸出支援が抱えていた「弱点」があります。 

展示会に出て引き合い(問い合わせ)が来ても、「量をそろえられない」「輸出向けの品質基準を満たせない」「物流のコストが合わない」といった理由で、商談が成約まで至らないケースが少なくありませんでした。宣伝だけを支援しても、原料から販売までの流れ(サプライチェーン)が整っていなければ、輸出は伸びない――ということです。 

この反省から、令和7年度補正以降は、「産地の生産基盤」「工場の輸出対応」「物流の効率化」「海外での販売体制」を一体で支える設計へと転換しています。 

では、こうした新しい枠組みのなかで、食品メーカーが実際に使えるのはどのメニューでしょうか。関わりの深いものから見ていきます。 

4 食品メーカーが使える具体的な枠 

食品メーカーにとって特に関わりが深いのは、次の4つのメニューです。ひとつずつ見ていきましょう。 

4-1. 輸出向けHACCP等対応施設整備(HACCPハード) 

食品メーカーにとって最も使いやすい枠のひとつが、通称「HACCPハード」です。正式名称は「食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業」。輸出先の国が求める衛生規制やHACCP(食品の安全を守る国際的な衛生管理の指針)に対応した施設整備を支える事業として、農林水産省が続けて実施しています。(出典:農水省・食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業) 

令和7年度補正では、1件あたりの上限額が、これまでの5億円から6億円へ引き上げられました。補助率は2分の1以内、下限は250万円です。(出典:青森県・令和7年度補正HACCPハード事業概要)(※1) 

主な条件を、下の表にまとめました。 

項目 内容 
補助率 2分の1以内 
補助上限額(1件あたり) 6億円
(令和6年度補正〜令和7年度当初の5億円から引き上げ) 
補助下限額 250万円 
対象事業者 食品製造事業者・食品流通事業者・中間加工事業者 など 
規模の要件(会社の大きさの条件) なし 
HACCP認定・認証のためのコンサル費・手数料・人材育成費 施設整備事業費の20%以内が上限 

対象になるのは、次のようなものです。 

補助の対象になるもの(HACCPハード) 
加工食品などの輸出拡大に必要な、製造・加工・流通施設の新設・増築・改修 
輸出に対応するために必要な機器の整備 
HACCPの認定・認証を取るためのコンサル費・手数料・人材育成費(これらは施設整備事業費の20%以内が上限) 

対象となるのは食品製造事業者、食品流通事業者、中間加工事業者などで、規模の要件(会社の大きさの条件)はありません。 

「プロジェクト型」への転換が進むなかでも、HACCPハードは「輸出対応の入口」として引き続き重視されており、むしろ上限額が上がったことで、使い勝手はよくなっています。 

4-2. 食品関連産業の国際競争力強化緊急対策 

HACCPハードよりも広い範囲をカバーする枠です。公募要領(募集の詳しい条件を書いた書類)を見ると、加工・製造・物流・冷蔵庫などを含めた、原料から販売までの流れ全体の整備が対象としてはっきり書かれています。(出典:食品関連産業分野の国際競争力強化緊急対策・公募要領) 

具体的には、次のようなものが対象になり得ます。 

対象になり得るもの(食品関連産業の国際競争力強化緊急対策) 
輸出向け製品の製造ラインの整備 
輸出先の国の規制に対応するための設備 
輸出向けの包装・表示への対応 
冷蔵・冷凍設備の増強 

4-3. サプライチェーン連結強化 

産地と食品メーカー、物流事業者をつないで、輸出向けのサプライチェーンをつくり上げるプロジェクトを支える枠です。 

たとえば、「産地で一次加工した原料を、自社工場で最終製品に仕上げ、物流パートナーと組んで輸出する」といった、ひとつながりの構想を持つプロジェクトが対象になります。 

4-4. 食品等物流合理化緊急対策 

輸出にかかわる物流の効率化を支える枠です。標準化・DX(デジタル技術で仕事のやり方を変えること)・共同化に重点が置かれており、「輸出コンテナの積み込み効率を上げる」「冷蔵・冷凍物流を最適にする」「物流の情報をデジタルでつなぐ」といったプロジェクトが対象になります。 

5 GFP登録は「入場券」になりつつある 

輸出関連の補助金を使ううえで、もうひとつ押さえておきたいのが、「GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)」への登録です。 

GFPは、輸出に取り組む事業者を農林水産省が登録し、支援する仕組みです。登録そのものは無料で、特別なハードルはありません。ですが、輸出関連の補助事業の多くで、「GFP登録事業者であること」が申請の要件になっていたり、加点の要素(審査で有利になる材料)になっていたりします。 

まだ登録していない食品メーカーは、まずGFPに登録しておくことをおすすめします。登録しておくと、輸出関連の公募情報や支援策の案内も届くようになります。 

🔑 ポイント 

GFP登録は無料で、手続きも簡単です。にもかかわらず、輸出関連の補助では「要件」または「加点」として求められることが増えています。輸出を検討している食品メーカーは、補助金を使うかどうかにかかわらず、早めに済ませておくのがおすすめです。 

6 食品メーカーが「輸出プロジェクト型」補助を活用するポイント 

ここまで、どんな枠があるか・GFP登録の重要性を見てきました。最後に、これらを実際に使いこなすための準備を整理します。 

では、食品メーカーがこの新しい輸出支援の枠を活かすには、どんな準備が必要でしょうか。大きく4つのポイントに整理しました。 

4つのポイント どういうこと? 
① まずは「HACCPハード」で 
輸出対応の基盤を整える 
輸出に取り組む食品メーカーにとって、製造施設のHACCP対応は最初のステップです。HACCPハードは上限6億円・補助率2分の1と使いやすく、「まず自社工場を輸出対応にする」という段階の会社に向いています。 
② 「自社だけ」ではなく 
「サプライチェーン全体」で構想する 
HACCPハードで自社の基盤を整えた次のステップとして、プロジェクト型の補助を考えます。単独の設備投資よりも、産地・物流・販売を巻き込んだ構想が求められます。「どの産地と組むか」「物流パートナーは誰か」「海外の販売先はどこか」まで含めた絵を描くことが、採択のポイントになります。 
③ 輸出先の国の規制・認証を 
把握しておく 
輸出促進関連の補助では、「輸出先国の規制対応」「HACCP認証」「輸出向けの包装・表示」といった要素が重視されます。自社が狙う輸出先の国の規制要件を前もって調べ、どの設備・体制が必要かをはっきりさせておくと、申請書の説得力が増します。 
④ GFP登録を済ませておく 前に述べたとおり、GFP登録は多くの輸出関連補助で要件または加点の要素になっています。登録は無料・簡単なので、輸出を検討している食品メーカーは早めに済ませておきましょう。 

【まとめ】第3回:輸出支援は「単発」から「プロジェクト型」へ

  • 輸出支援は「展示会などの単発」から「産地〜工場〜物流〜販売を束ねるプロジェクト型」へ転換しました 
  • ただし「HACCPハード」は引き続き重要な柱として残り、上限額は5億円→6億円に拡大しています 
  • 令和7年度補正の「輸出促進緊急対策事業」には、産地側・商流側・マーケティング側のメニューが並んでいます 
  • 食品メーカーが使いやすいのは「HACCPハード」「食品関連産業の国際競争力強化」「サプライチェーン連結強化」「食品等物流合理化」の4つです 
  • GFP登録は、輸出補助金活用の「入場券」になりつつあります 
  • 採択されるには「サプライチェーン全体の構想」と「輸出先国の規制対応」がカギになります 
📖 次回(第4回)予告 

次回は、「みどり戦略」と環境対応が、補助金の必須レイヤー(欠かせない土台)になりつつある状況を見ていきます。「環境は別枠」という認識は、もう通用しなくなっています。 

✍️ この記事を書いた人

北條 竜太郎(ほうじょう りゅうたろう)|株式会社アカネサス 代表取締役

老舗どら焼きメーカー・茜丸を再建(22億円の債務を15年で完済)した経験から、

食品メーカー向けコンサルティング会社を設立。

補助金申請・工場設計・システム開発で食品製造業の成長を支援。

【会社実績】

・支援プロジェクト総事業費:363億円

・補助金採択額:126.5億円

・北海道から沖縄まで全国対応

脚注 

※1:HACCPハードの上限額の推移 

令和6年度補正〜令和7年度当初:補助率2分の1以内、上限5億円、下限250万円(参考:青森県・R7当初HACCPハード要望調査、茨城県・HACCPハード事業案内、福岡県・HACCP要望調査) 

令和7年度補正:補助率2分の1以内、上限6億円、下限250万円(出典:青森県・令和7年度補正HACCPハード事業概要) 

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