【食品メーカーの補助金 実質比較】補助金は「額面」でなく「実質」で比べる|賃上げ要件のコストを引くと、5億円が0.7億円になる


上限5億円と書いてあるが、本当に5億円分お得になるのか



賃上げ要件は「どうせいずれ上げるから」でいいのか
補助金を比べるとき、多くの会社が見るのは補助上限額です。5億円と2億円なら5億円のほうがいい。当然の判断に見えます。
しかし、私たちが提案の場で試算すると、上限5億円の補助金が実質0.7億円まで縮むことがあります。理由は、補助金を受け取るための「要件」に、それ自体のコストがついているからです。
本記事では、実際の提案で行った試算をもとに、補助金を「額面」ではなく「実質」で比べる方法をお伝えします。自社で計算するための手順も載せました。
- 【試算】上限5億円が、実質0.7億円になった例
- なぜ差が生まれるのか|経産省系の賃上げ要件
- 【制度別】賃上げ要件がある制度・ない制度
- 【比較】同じ投資を、経産省系と農水省系で比べてみる
- 【手順】自社の「実質」を計算する4ステップ
- 【注意】それでも経産省系を選ぶべき場面
- 【FAQ】補助金の実質額についてよくある質問
- まとめ:補助金は、投資を決める理由ではない
📉 1. 【試算】上限5億円が、実質0.7億円になった例
中小企業成長加速化補助金は、現行の公募で補助上限5億円・補助率2分の1・投資額1億円以上(税抜)。売上高10億円以上100億円未満の会社が対象で、100億宣言をポータルサイトで公表していることが必要です。
そのうえで課されるのが、賃上げ要件です。従業員1人当たりの給与支給総額の年平均上昇率を4.5%以上にすることが求められます。この4.5%は制度固有の数字ではなく、全国の直近5年間の最低賃金の年平均上昇率に連動する基準率で、公募回ごとに動きます。
上限5億円は魅力的です。ただ、ここに落とし穴があります。
成長加速化補助金で、上限の5億円を受け取れたとします。
しかし賃上げ要件を満たすための人件費の増加は、3年目の時点で年あたり約4.3億円。
補助金5億円は一度きりですが、この約4.3億円は毎年続きます。1年分で比べても、差し引きの実質は約0.7億円まで縮みます。
従業員約120名の別の会社でも、経産省系の補助金の賃上げ要件を満たすと、人件費が年に約5,000万円増えるという試算になりました。
「額面5億円」と「実質0.7億円」。同じ補助金の話です。
※試算はアカネサスが個別の提案で行ったもので、要件や人員構成によって結果は変わります。試算の前提は、賃上げ率4.5%を3年複利、法定福利費の事業主負担15%、従業員数は据え置き、平均給与は個社の実績値です。
🔍 2. なぜ差が生まれるのか|経産省系の賃上げ要件
賃上げは「複利」で効く
賃上げ要件が重いのは、それが一回きりの支出ではなく、複利で積み上がるからです。
年平均上昇率4.5%というのは、1年目に4.5%上げて終わりではありません。3年間続ければ、1人当たりの給与は約1.14倍になります。しかも、上げた給与は翌年以降も下がりません。補助金は一度きりですが、人件費は毎年続きます。対象期間も制度で違い、成長加速化は補助事業完了後3年間(報告義務はその後も続きます)、省力化やものづくり系は補助事業終了後3〜5年です。
さらに、給与に連動して社会保険料の事業主負担も増えます。試算では、この分も見ておく必要があります。
なお、賃上げ率の根拠は制度ごとに違います。成長加速化の4.5%は最低賃金の年平均上昇率に連動し、省力化・新事業進出・ものづくりの3.5%は日銀の物価安定目標に1.5%を足した値、大規模成長投資は5.0%(100億宣言企業は4.5%)です。同じ「賃上げ要件」でも、重さは制度ごとに違います。
従業員数が多いほど、重くなる
もう一つの構造は、補助金の上限が投資額で決まるのに対し、賃上げのコストは従業員数で決まることです。
従業員500名の会社と50名の会社が、同じ3億円の設備投資をしたとします。受け取れる補助金は同じでも、賃上げにかかるコストは10倍違います。つまり、従業員が多い会社ほど、経産省系の補助金は「実質」が薄くなります。
📊 従業員数と「実質」の効き方
| 従業員50名 | 従業員120名 | 従業員500名 | |
|---|---|---|---|
| 補助金の額面 | 同じ投資なら同額 | 同じ投資なら同額 | 同じ投資なら同額 |
| 賃上げ要件のコスト (年間の人件費増) | 小さい | 約5,000万円 (試算例) | 大きい |
| 実質の効き方 | 額面に近い | かなり削られる | 大きく削られる |
食品製造業は労働集約的で、従業員数が多くなりがちです。だからこそ、この構造の影響を受けやすい業種だと言えます。
📊 3. 【制度別】賃上げ要件がある制度・ない制度
食品メーカーが検討する主な制度を、賃上げ要件の有無で並べます。
📊 制度別の一覧(補助上限・賃上げ要件・所管)
| 制度 | 補助上限 | 賃上げ要件 | 所管 |
|---|---|---|---|
| 中小企業成長加速化補助金 | 5億円 | 1人当たり給与支給総額の年平均上昇率4.5%以上 | 経産省 |
| 大規模成長投資補助金 | 50億円(補助率1/3・投資額20億円以上。100億宣言企業は15億円以上) | 1人当たり給与支給総額の年平均上昇率5.0%以上(100億宣言企業は4.5%以上) | 経産省 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 750万〜9,000万円(9,000万円は従業員101人以上・賃上げ特例の適用時) | 1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上、事業場内最低賃金は地域別最低賃金+30円以上 | 経産省 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 750万〜8,000万円(大幅賃上げ特例で最大1億円) | 給与支給総額の年平均成長率3.5%以上、最低賃金+30円以上 | 経産省 |
| 産地連携支援緊急対策事業 | 2〜3億円 | なし | 農水省 |
| 食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業 | 1〜6億円(令和8年度当初1億円/令和7年度補正6億円) | なし | 農水省 |
| 強い農業づくり総合支援交付金 | 1計画あたり年20億円(整備事業) | なし | 農水省 |
| 農山漁村振興交付金 | 1〜2億円(補助率3/10または1/2・中小企業者限定) | なし | 農水省 |
きれいに分かれます。経産省系には賃上げ要件があり、農水省系にはありません。
理由は、制度の目的が違うからです。経産省の補助金は中小企業・中堅企業を育てるためのお金なので、成長と賃上げを求めます。農水省の補助金は食料の自給と輸出のためのお金なので、求めるのは国産原料を増やすこと、輸出に対応すること、産地と組むことです。
※農水省系にも、投資効率や事業費の一部借入といった別の要件があります。「要件がない」のではなく「賃上げ要件がない」という意味です。また農山漁村振興交付金は令和8年度から「地域資源活用価値創出対策」に名称が変わり、産業支援型は中小企業者に限られます。六次産業化法等の計画認定が前提で、国の直接公募ではなく都道府県経由です。
⚖️ 4. 【比較】同じ投資を、経産省系と農水省系で比べてみる
考え方を示すために、同じ投資を2つの制度で比べてみます。
前提:従業員300名の食品メーカー。国産野菜の使用量を増やすため、3億円の加工ラインを導入する
📊 経産省系と農水省系を、同じ投資で比べる
| 経産省系(成長加速化補助金) | 農水省系(産地連携) | |
|---|---|---|
| 補助率と額面 | 1/2で1.5億円 | 1/2で1.5億円 |
| 追加で必要な要件 | 100億宣言の公表/1人当たり給与支給総額 年4.5%以上の賃上げ | 国産原材料の取扱量を10%以上増やす/産地との連携 |
| 要件を満たすコスト | 賃上げによる人件費増(従業員数に比例して発生し、毎年続く) | 産地との調整コスト。原料単価が上がる場合はその差額 |
| 実質 | 賃上げコストの分だけ、額面から差し引かれる | 原料調達の条件次第。国産化そのものが事業目的なら、コストではなく投資 |
ここで大事なのは、どちらが得かを一般論で決めないことです。判断の分かれ目は、賃上げや国産化が「もともとやるつもりだったこと」かどうかにあります。
もともと賃上げを計画していた会社にとって、賃上げ要件はコストではありません。すでに決めた支出に補助金が乗るだけです。逆に、補助金のために賃上げ率を引き上げるなら、それは純粋な追加コストになります。
国産化も同じです。国産原料を増やすことが経営方針なら、産地連携の要件は追い風です。補助金のために国産に切り替えるなら、原料単価の差は追加コストです。
※数字は考え方を示すための例です。実際の判断は、個別の要件と人員構成をもとに試算してください。また産地連携は、国が公募するのは事務局にあたる事業実施主体で、食品メーカーはその下の間接補助事業者として申請します。
🧮 5. 【手順】自社の「実質」を計算する4ステップ
難しい計算は要りません。次の4つを順に埋めてください。
ステップ1 額面を出す
投資額に補助率を掛け、補助上限と比べて低いほうを取ります。投資額3億円・補助率1/2なら1.5億円。上限がそれより低ければ、上限額が額面です。
ステップ2 要件を満たすコストを出す
賃上げ要件があるなら、次の式で概算します。
n年目の増加額 = 現在の給与支給総額 ×((1+賃上げ率)のn乗 − 1)
+ それに連動して増える社会保険料の事業主負担
※年平均上昇率なので、複利で積み上がります。年4.5%なら、増加額は1年目4.5%・2年目9.2%・3年目14.1%で、3年間の累計は給与支給総額の約27.8%です。「4.5%×3年=13.5%」と単純に掛けると、負担を半分に見誤ります。
この数字は、補助事業が終わったあとも続きます。補助金は一度きりですが、人件費は毎年です。ここを見落とすと、試算が甘くなります。
ステップ3 差し引いて「実質」を出す
額面から、要件を満たすコストを引きます。これが実質です。
ただし、もともと予定していた賃上げ分は引かなくて構いません。引くのは「補助金のために上積みした分」だけです。
ステップ4 制度を並べて比べる
候補になる制度を2つ3つ並べ、それぞれの実質を出して比べます。採択率も掛け合わせると、より現実的な比較になります。
📊 実質で比べるための記入シート
| 制度 | 額面 | 要件コスト | 実質 | 採択率の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 億円 | 億円 | 億円 | % | |
| 億円 | 億円 | 億円 | % | |
| 億円 | 億円 | 億円 | % |
この表を埋めるだけで、「上限が大きいほう」という直感的な判断からは離れられます。
⚠️ 6. 【注意】それでも経産省系を選ぶべき場面
ここまで読むと「農水省系一択」に見えるかもしれませんが、そうではありません。経産省系を選ぶべき場面は確実にあります。
- 国産原料・輸出・産地連携・地域のいずれにも当てはまらない投資。純粋な生産性向上や、新製品開発のための設備投資は、農水省系の入口に立てません
- もともと積極的な賃上げを計画している会社。賃上げ要件がコストにならないため、額面がそのまま実質に近づきます
- 従業員数が少なく、賃上げのコストが小さい会社
- 投資規模が数千万円クラスの案件。農水省系の制度は数億円規模の投資を想定しており、小さな案件では動きにくいことがあります
- スケジュールが合わない場合。農水省系は前年の秋から動く2年がかりのサイクルで、思い立ってすぐ申請できる制度ではありません
大事なのは、農水省系を「知らないまま」経産省系を選ばないことです。比べたうえで経産省系を選ぶのと、選択肢が1つしかないのとでは、結果が変わります。
❓ 7. 【FAQ】補助金の実質額についてよくある質問
- Q1. 賃上げ要件を達成できなかったら、どうなりますか?
-
制度によりますが、補助金の返還を求められることがあります。本記事で取り上げた中小企業成長加速化補助金では、未達成率に応じた返還があり、基準年度を下回った場合は全額返還です。また新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、公募要領に「補助金交付額に目標値の未達成率を乗じた額の返還を求めます」と明記されています。達成できる計画かどうかを、申請前に見極める必要があります。
- Q2. 賃上げは、いずれやるのだから同じではないですか?
-
もともと計画していた水準までなら、そのとおりです。問題は、補助金の要件が自社の計画を上回るときです。年3%の賃上げを予定していた会社が、要件を満たすために4.5%に引き上げるなら、差の1.5%分が追加コストです。この差だけを実質から引いてください。
- Q3. 農水省系には要件がないのですか?
-
賃上げ要件がないという意味です。別の要件はあります。HACCPハード事業なら輸出事業計画の認定と、事業費の10%以上を金融機関から借り入れること、投資効率2.0以上。産地連携なら国産原材料の取扱量10%増。強い農業づくりなら農業者との連携です。
- Q4. 採択率も考慮に入れるべきですか?
-
実務上は考慮すべきです。額面が大きくても採択率が低ければ、期待値は下がります。ただし採択率は制度ごとに公表状況が異なり、単純比較は難しい面もあります。比較の一要素として見てください。
- Q5. 補助金の入金までの資金はどう見ればいいですか?
-
補助金は原則として後払いです。設備代金を先に支払い、実績報告と検査を経てから入金されます。その間のつなぎ資金は自社で用意する必要があり、借入なら金利も発生します。実質を計算するなら、この金利も入れてください。
- Q6. 大企業でも賃上げ要件のない制度は使えますか?
-
農水省系の制度の多くは、企業規模の要件がありません。産地連携、HACCPハード事業、強い農業づくり総合支援交付金は、大企業でも申請できます。経産省系で規模要件に引っかかる会社ほど、農水省系を検討する価値があります。ただし農山漁村振興交付金の産業支援型は、中小企業者に限られます。
📝 まとめ:補助金は、投資を決める理由ではない
補助金を経営の道具として使うには、順番があります。
① 補助金が入らなくても必要な投資かを決める
② その投資を「国の言葉」(国産原料・輸出・地域・省力化)で説明できるかを考える
③ 候補の補助金を「額面」ではなく「実質」で比べる
「使える補助金を探してから投資を考える」と、補助金に合わせて不要な投資を足すことになります。採択されても、経営は楽になりません。
額面5億円が実質0.7億円になるのは、制度が悪いからではありません。賃上げは、国が求めている正しい政策です。ただ、経営判断の場面では、その正しさとは別に、数字で比べる必要があるというだけのことです。
補助金は、投資を決める理由ではありません。決めた投資を軽くする道具です。




✓ 補助金は額面ではなく実質で比べる。上限5億円の成長加速化補助金も、賃上げ要件のコストを引くと実質0.7億円まで縮むことがある
✓ 賃上げ要件は経産省系にあり、農水省系にはない。コストは投資額ではなく従業員数で決まるので、労働集約的な食品製造業ほど実質が薄くなる
✓ ただし、もともと予定していた賃上げならコストではない。実質から引くのは「補助金のために上積みした分」だけ
「主要9制度の早見表と準備カレンダー」をA4・2枚にまとめました。工場長や経理のご担当者にそのまま回覧できる形式です。
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「賃上げ要件のコストを、自社の人員構成で試算してほしい」
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(注)試算はアカネサスが個別の提案で行ったもので、要件や人員構成によって結果は変わります。各制度の補助上限・補助率・賃上げ要件は2026年9月時点の公募要領にもとづくもので、公募回により変わります。申請前に必ず最新の公募要領をご確認ください。







